伊藤忠テクノソリューションズ調査報告書


2007年9月発行


1.調査概要

1.1 調査の目的

最新の調査によると、企業のeラーニング導入率は54.6%で既に半数以上の企業が導入している。特に、従業員数が5,000名以上の企業の導入率は82.8%に達しており、大手企業のほとんどはeラーニングを導入しているといってもよいだろう(特定非営利活動法人日本イーラーニングコンソシアム編:eラーニング白書2007/2008年版,東京電機大学出版局,2007)。

これらの企業では、内部統制や個人情報保護、情報セキュリティ、環境マネジメントなど、全従業員を対象とした一斉教育にeラーニングを活用している事例が多く、一定の成果が報告されている。

今後の企業内教育におけるeラーニングの方向性の一つとして、ノウハウやナレッジの共有あるいはWeb2.0的利用といった、これまでの一斉教育とは異なる形態が求められている。例えば、英国の携帯電話会社では従業員だけでなく、顧客も含めた全ての関係者がWeb2.0的eラーニングで携帯電話の新しい機能を教えあったり、新機能開発の情報交換を行うなどの事例がある(Laura Overton,英国,2007)。しかし、日本ではこのような活用事例は尐なく、公開されている情報も乏しいという状況である。

このような中、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社では、これまでの一斉教育型eラーニングも活用しながら、従業員一人ひとりが情報発信する新しいeラーニングの試みが始まっている。
本調査では、同社のeラーニング導入状況と従業員による情報発信型eラーニングについて調査を実施したものである。


1.2 調査概要

本調査の調査対象、調査期間、調査方法は以下のとおりである。

(1) 調査対象 : 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
(2) 調査期間 : 2007年9月1日~2007年9月30日
(3) 調査方法 : ヒアリング、データ分析


1.3 調査項目

以下の項目について調査を実施した。

(1) 企業情報
(2) eラーニング概要
(3) 受講実績
(4) eラーニング2.0
(5) 運用体制
(6) コンテンツ制作
(7) システム
(8) 今後の展望
(9) 課題

2.調査結果

2.1 企業情報

今回、調査を実施した企業は次のとおりである。

名称
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(略称:CTC)
創立
1972年4月
住所
東京都千代田区霞が関3-2-5霞が関ビル
事業概要
コンピュータ・ネットワークシステムの販売・保守、ソフトウェア受託開発、情報処理サービス、科学・工学系情報サービス、サポート、他

2.2 eラーニング概要

伊藤忠テクノソリューションズでは、2004年10月にeラーニングを導入した。当初は、集合研修の管理やITSS準拠のスキル管理、人材マネジメント機能を始めとした豊富な機能が提供されたが、機能が複雑だったことなどから次第に使われなくなってしまい、eラーニングの導入・活用としては失敗に終わった。その後、これまでの失敗を教訓として2006年4月よりシンプルなeラーニングシステムを導入し現在に至っている。

現在は、ITインフラの一部としてeラーニングが位置づけられ社内に定着している。特にCTCグループ全従業員(約6,400名)がコンテンツを制作・配信できるなど、Web2.0的な利用が広がっている。

名称
eSchool
開始日
2006年6月1日
第一期・・・2004年10月(失敗に終わる)
第二期・・・2006年4月(リプレイス、現在に至る)
講座数
45講座
受講対象者
CTCグループ全従業員(約6,400名)
受講画面受講画面
社内ITインフラ概念図(eSchoolの位置付け)社内ITインフラ概念図(eSchoolの位置付け)

2.3 受講実績

2006年4月からの第二期eラーニングでは、延べ46,000名以上が受講している。セキュリティ研修やコンプライアンス研修など、受講対象者が5,000名以上の一斉教育も行われているが、20名程度を対象としたニッチな教育も行われるなど、社内にeラーニングが定着していることが分かる。

主なeラーニング講座
No 講座名 対象ユーザ数
1 次世代セキュアオフィス環境構築に向けて(SunRayと新社員証の説明) 1,061
2 新社員証導入説明 2,313
3 情報セキュリティ通達周知度確認テスト 5,931
4 【グループウェア】 お客様へのご紹介 2,311
5 2006年度1Q全社向けセキュリティ研修 5,968
6 CTCグループ新規配属者オリエンテーション 456
7 CTCグループ新規配属者オリエンテーション研修2.0 772
8 環境問題の基礎知識 149
9 2006年度2Q全社向けセキュリティ研修 6,137
10 倫理コンプライアンス2006 4,264
11 eSocks/メールシステム機能説明 第1回 3,188
12 eSocks/メールシステム機能説明 第2回 3,178
13 2006年度3Q全社向けセキュリティ研修 6,214
14 2006年度 自分のためのメンタルヘルスケア 1,773
15 ISO/IEC270001 研修 理解度テスト 24
16 お客さまへの提案研修 64
17 ハイスキルエンジニア集合研修フォロー 27
18 セキュリティ研修 154
19 2006年度 セキュリティ基礎教育 1,845
20 社内ポータルを使おう! 1,000
21 2006年度座学事確認テスト 100
合計 46,929

2.4 eラーニング2.0

伊藤忠テクノソリューションズのeラーニングは、従業員一人ひとりがコンテンツを制作し社内へ発信することができる。教えたい従業員はeラーニングシステムのコンテンツ制作機能を利用して、自席でコンテンツを制作しシステムへ登録する。また、社内への発信も部門名や役職など複数の条件に該当する従業員を検索し受講者として一斉に登録することが可能である。このようなeラーニングの活用により同社では情報を発信し、学ぶ文化の創造を狙っている。

eラーニング2.0概念図eラーニング2.0概念図
該当従業員検索画面該当従業員検索画面

伊藤忠テクノソリューションズの従業員が制作したコンテンツには、以下のようなものがある。手書きの似顔絵を挿入するなど、他部門の従業員にも親しみをもたれるよう考慮している。
このように、個性あるコンテンツを従業員自身が制作・発信することで、社内のノウハウやナレッジを共有している。

手書き似顔絵付きコンテンツ手書き似顔絵付きコンテンツ

2.5 運用体制

教育を発信したい部門や従業員一人ひとりがコンテンツを制作・管理しているため、eラーニングの運用担当者は社内情報システム部門の従業員1名と極めて尐人数である。受講者からの質問対応や未受講者への督促、合否通知などコースの運用面においても教育を発信している部門が担当している。

運用担当者: 1名

受講フロー図受講フロー図

2.6 コンテンツ制作

コンテンツは、音声+スライド(アニメーション含む)形式である。

パワーポイントのスライドを、eラーニングシステムのコンテンツ制作機能を用いてアップロードし、画面を見ながら音声を吹き込み(あるいは別途、収録した音声をアップロードし)コンテンツを制作する。アニメーションを利用する場合は、事前にパワーポイントにて設定する

このように伊藤忠テクノソリューションズでは、ほとんどのコンテンツを社内で制作している。教育することを必要としている部門や従業員(教えたい部門や従業員)がコンテンツを制作することで、教育内容が充実するだけでなく受講対象者への公開までの時間が短くなり早期に教育を徹底することを実現している。

また、メンタルヘルスケア教育など一般的なコンテンツについては、コンテンツベンダーが販売している既製品を購入し、eラーニングシステムへ登録・配信している。

コンテンツ形式
音声+スライド(アニメーション含む)
オーサリング
eラーニングシステムのコンテンツ制作機能を利用
制作スタッフ
CTCグループ全従業員(約6,400名)のうち希望者が自席で制作
汎用コンテンツ
外部から既製品を購入
コンテンツ制作機能画面コンテンツ制作機能画面

2.7 システム

システムの開発はeラーニングシステムベンダーへ外部委託し、導入実績が豊富な市販のeラーニングパッケージシステムをeSchool専用に画面、機能等をカスタマイズしている。
システムベンダーに対しては、運用状況に応じた機能追加や改善などを要望し定期的にバージョンアップを図っている。

システム開発
市販のeラーニングパッケージシステムをカスタマイズ
開発要員
eラーニングシステムベンダーへ外部委託
運用要員
社内情報システム部門

2.8 今後の展望

2007年10月より、外出の多い従業員が移動中でも学習できるように携帯電話での学習も可能となる。

これまでに制作したパソコン用eラーニングコンテンツを、eラーニングシステムのコンテンツ制作機能を用いて、携帯電話用コンテンツとして保存するだけで、パソコン用・携帯電話用のどちらにも対応したコンテンツとなる。学習者は、パソコンと携帯電話のどちらからでも同じコースを学習できるため、学習履歴も同期している。

携帯電話画面例(学習画面)携帯電話画面例(学習画面)
携帯電話画面例(テスト画面)携帯電話画面例(テスト画面)

2.9 課題

従業員からは、コンテンツ制作の煩雑さが指摘されている。パワーポイントを素材に制作できるが、音声の吹き込みやパワーポイントアニメーションの設定、目次へのコンテンツ割り当てなど複数の手順が必要なためである。今後は、手順の簡素化などコンテンツ制作インタフェースの工夫、改善が必要である。

また、システム運用担当者からは運用人員の増強が要望されている。システムは極めて尐人数で運用できるが、社内ヘルプデスクなど利用者増大に伴う体制の整備は必要である。

3.まとめ

これからのeラーニング、特に企業内教育におけるeラーニングでは、個人のノウハウやナレッジの共有、Web2.0的活用が求められている。これを実現している事例として、従業員一人ひとりが情報発信できるeラーニングを実践する伊藤忠テクノソリューションズはよい例である。

同社では、情報を発信したい部門や従業員がeラーニングシステムを使ってコンテンツを作り、必要に応じて自分自身のナレーションで説明を加えている。発信者は、コンテンツの受講者を部門名や役職など複数の条件で検索し、該当する対象者へ一斉に発信することもできる。受講者からの質問対応や進捗管理などについても情報発信部門が担当するなど、CTCグループ全従業員が受講者であり情報発信者でもある。
この点で、同社の狙いである「情報を発信し、学ぶ文化を創造する」基盤は整備されたといえるのではないだろうか。現在のところ、CTCグループ全従業員が情報を発信しているとはいえないが、今後の携帯電話での受講環境整備に伴い、移動中でもeラーニングが受講できることで徐々に情報発信事例が増えるものと思われる。

多くの企業では、従来型のeラーニングを導入し多人数一斉教育による、教育・研修の徹底やコスト削減に効果を上げているが、Web2.0的活用には至っていない。今後のeラーニングの活用推進のためには、伊藤忠テクノソリューションズの事例を参考にすべきである。


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