学校法人 近畿大学
7割以上の学生が1.5倍速で授業視聴、「ログ分析」で学生のリアルな行動が明らかに。近大が進めるオンデマンド授業とは

近畿大学がDXの一環として推進する授業のオンデマンド化。2021年度より通学課程の学生を対象とした「KICSオンデマンド授業」を開講、さらに学習ログ分析を通してより良い学習環境を実現する取り組みに力を入れています。「倍速機能を使っているユーザーのうち7割以上の学生が1.5倍速で動画を視聴」「オンデマンド授業の視聴ピークは23時台」など、これまで知り得なかった学生のリアルな学習行動が明らかになりつつある今、同大学が目指す方向性とは?インタビューで詳しくお聞きしました。

学校法人 近畿大学
大学運営本部 通信教育部学生センター 事務長 若林武敏様(右)
学校法人 近畿大学
経営戦略本部 起業・関連会社支援室 課長代理
デジタル戦略室兼務
大学運営本部 通信教育部学生センター 課長代理
DX推進ユニット デジタルコンテンツチーム
プロジェクトマネージャー 兼務 髙木純平様(左)

お客様のニーズ

  • 通学課程の学生向けオンデマンド授業配信を短期間でスタートさせたい。
  • 多様な学習ログを取得・分析することで学生の行動を把握し、より良い学習環境の実現につなげたい。

導入サービス

KICSオンデマンドの特徴
フルオンデマンド型
専用スタジオ(KICS=KIndai Creative Studio)で収録
学部横断で開講できる共通教養科目を中心に展開
教職員一体となって受講者を飽きさせない・理解しやすい工夫を実施
授業アンケートやログ解析でPDCAを回す

学生の78.7%が「今後も受講したい」KICSオンデマンドとは

近畿大学ではどういった経緯で「KICSオンデマンド」をスタートされましたか。

若林様:本学では通信教育部において、2014年度(平成26年度)よりオンデマンドによる授業配信をおこなってきました。通信の学生さんにとって、居住地や時間に制限されない学習環境はとてもニーズが高く、他大学に先駆けるかたちで取り組みを進めてまいりました。

その後、コロナ禍において、通学課程の学生さんにも自宅で学習できる環境を提供できないかということで、この「KICSオンデマンド」の配信をすることになりました。通信教育部で蓄積してきたコンテンツ制作や配信プラットフォームに関するノウハウを活かし、2021年度から共通教養科目を中心にオンデマンド化に取り組み、新たな学びの環境を提供しています。

これまでどれくらいの学生さんがKICSオンデマンドを受講されましたか?

髙木様:2021年度は前期後期ともに2,000人ほどの受講者数でしたが、2022年度は科目数が増えたこともあり(*1)、前期のべ7,000人以上、後期のべ9,000人以上と規模が拡大しています。学生は授業動画を視聴し、確認テストで理解度をチェック、満点を取れば次の授業を受講できる仕組みです。
(*1)2021年度は15科目、2022年度は27科目を開講。2024年度までに29科目の開講を目指している。

学生のみなさんはKICSオンデマンドをどのように評価されていますか?

髙木様:2022年度前期のKICSオンデマンド履修者7,080人を対象に授業評価アンケートを実施しました。その結果、今後別の科目で「KICSオンデマンド授業」「リアルタイムのオンライン授業」「対面授業」を選択できる場合、「KICSオンデマンドを受講したい」と回答した学生が78.7%にのぼり、オンデマンド授業の満足度の高さがうかがえる結果となっています。

システム採用の決め手は「ログ取得機能」、その目的は?

KICSオンデマンドを始めるにあたって、どのような準備が必要でしたか?

髙木様:収録スタジオや機材の準備、スタッフの手配、動画の授業構成やルールの確立、そして配信プラットフォームの準備などです。プラットフォームは構築完了までの納期が短いもの、数千人のアクセスに耐えられるインフラ、エンドユーザ(おもに1年生)がなじみやすいUIを備えているものが条件でした。

弊社のLMS『KnowledgeDeliver』を採用された決め手をお聞かせください。

髙木様:もともと通信教育部でKnowledgeDeliver(およびVideo+オプション)を使っており、7年間にわたって安定稼働してくれたという実績が大きかったです。すでに構築されたプラットフォームとして存在していたので、今回シームレスに活用することができました。

また、通学部の学生さんに使ってもらうためにはSAML認証のシングルサインオンや出欠・成績データのCSV出力が必要でしたが、この辺りのアドオン開発も非常にタイトなスケジュールのなか、短期間で実装いただいたところも大きかったと思います。そして何よりも学習データ分析に必要なログがKnowledgeDeliverから抽出可能な点が決め手となりました。

ログについては、当初から「こういうログを取りたい」という具体的なイメージをお持ちだったのでしょうか。

髙木様:そうですね、ログ取得機能の実装にあたっては、事前にデジタル・ナレッジの営業さんSEさんと打ち合わせをして、こういったログがほしいという希望をお伝えしました。たとえば、視聴日時・視聴回数・動画再生時間などのいわゆる「視聴ログ」はもともとKnowledgeDeliverで取得可能でしたが、新たに動画の再生ボタンや早送りボタン、シークバーを操作したログが取れる「操作ログ」取得機能を実装(*2)していただきました。
(*2)KnowledgeDeliverとVideo+オプションのカスタイマイズにより実装

学生が早送りボタンやシークバーを操作すると「誰がどの科目で再生から何分何秒で実行したのか」「シークバーをどこに移動したのか」といった詳細ログが取得できる

髙木様:シークバーの移動や巻き戻し箇所が集中していたら、「このスライドはよく見られているな」「もしかしたら分かりにくいのでは?」といった分析が可能になります。現在この操作ログを分析中で、視聴ログ以上の詳細な分析ができると期待しています。

ほかにもご要望いただいたログはありましたか?

髙木様:KnowledgeDeliverには動画の視聴速度を等倍から0.5倍、0.75倍、1.25倍、1.5倍に変更できる機能がありますが、「いつ誰がどの科目で視聴速度を変更したのか」や、音量についても0から100の値の中で「いつ誰が何時何分に音量を変更したか」を取れるようにしたいというお話をして、こちらも実装していただきました。

こういったログ分析は、いわゆる教材の評価や改善を目的にしたものでしょうか。

若林様:コンテンツの改善につなげるためと、もう1つの目的は学生の行動把握です。学生がどのように学習をしているのか、これまではアンケートベースでしか知る手段がありませんでしたが、アンケートだと、実際には1.5倍速で動画を見ているのに成績への影響を心配して「等倍で見ました」という回答をしている可能性も否めませんでした。ですが、このログなら学生の実情を正確に把握できます。

「7割以上が1.5倍速で授業視聴」 ログ分析で見えてきた大学生のリアル

実際にログを分析することでどんなことがわかってきましたか?

髙木様:「成績」と「動画公開から何日以内に視聴したか」に相関関係があることがわかりました。成績が「秀」や「優」の学生さんは動画が公開されてから1週間程度で見ている人が多く、「可」や「不可」の学生さんは1つの動画を見終わるのが、公開後10日以上たってからという分析結果が出ています。

出典:学校法人近畿大学 プレスリリース「オンデマンド授業「今後も受講したい」学生78.7% 視聴速度と成績評価の相関は見られず」https://newscast.jp/news/2369751 (参照 2023.04.03)

 

髙木様:このログ分析結果をもとに、動画を公開してから何日までに見てほしいというルールを新たに定め、全体の成績の向上に努めています。

先ほどお話しされた「学生さんの行動把握」という意味ではなにか発見はありましたか?

髙木様:まず視聴時間帯ですが、対面授業の場合、朝~夕方までに学校に来て授業を受ける必要がありましたが、KICSオンデマンドでは23時台をピークに0~1時と深夜帯になっても多くの学生さんが視聴されていることがわかります。

たしかに23時台が突出していますね。

髙木様:昼間の11~17時も多いですが、その倍ほどの人数が23時の時間帯に集中しています。これはまさに、24時間いつでも受講できるオンデマンドの特性をよく表していると思います。

それから、対面であれば授業を1回受けただけで終わりですが、オンデマンドは複数回見ることができます。KnowledgeDeliverのログによると、科目によっては平均視聴回数1.4といった形で1回以上は必ず見ているという数値が出ています。同じ動画を繰り返し見る学生さんがいるということですね。

倍速視聴に関してはいかがでしょう。

髙木様:倍速視聴を使っているユーザーのうち1.5倍速で見ている学生さんが全体の7割以上を占めています。1つの授業科目は1~15回までありますが、回が進むごとに1.5倍速で見る学生層の割合が高くなっています。最近ではタイムパフォーマンスという言葉が流行っていますが、大学の授業も”タイパ”が重視されているのかなと我々も感じているところです。

成績と倍速視聴についての相関関係はありましたか。

髙木様:現時点では1.5倍速で見ている学生さんと倍速で見ている学生さんの成績に有意差はないという結果になっています。ただし、これは学生へのアンケート結果をもとにした分析です。KnowledgeDeliverの詳しいログなら、より精度の高い結果が出ると思いますので、今年度のデータが集まったら改めて相関関係を出す予定です。

システムには「わかった/わからないボタン」も実装。YouTubeのいいねボタンのようにその場でコンテンツの評価が可能だ。コメント入力もできるため、大学は学生から寄せられるコメントを参考にコンテンツの見直しを検討できるという。

これまで知り得なかった学生の行動が、ログ分析でここまで明らかになってきているんですね。

髙木様:そうですね。「少し早めのペースで見たほうが理解しやすい」という学生もいますし、教員がスライドを埋めていくときは早送りし、スライドが埋まり切ったら一時停止して確認するなど、授業の受け方は学生によってさまざま。これらもすべて、KnowledgeDeliverから出力された視聴ログおよび操作ログを分析することで明らかになりつつあります。

わずか半年で開講。オンデマンド化で大変だったこと

開講前を振り返って、とくに大変だったことはありましたか。

髙木様:KICSオンデマンドは2021年4月に開講しましたが、そのためのチーム発足が2020年10月でした。たった半年でスタジオ設置、15科目の授業収録、各種ルールの確立、プラットフォームの準備まで行う必要がありました。

若林様:将来構想としてオンデマンド化の話はもともとありました。ただ、コロナ禍になり、学生が大学に来られないという状況で、なんとか来年の4月に間に合わせようという緊急プロジェクトに途中で変わりました。そんななか、通信教育部で長年KnowledgeDeliverを活用させていただいていたことが、このスピード感ある開講につながったと思います。

髙木様:授業収録やスライド作成はすぐにでも取りかかれますが、ITインフラやプラットフォーム整備はどうしても時間がかかる部分です。非常に大変でしたが、デジタル・ナレッジさんの営業さんSEさんの努力によって本当に遅滞なく実現できました。

管理者側から見たKnowledgeDeliverの評価はいかがでしょうか。

髙木様:利用者目線でも管理者目線でもシンプルな作りで、運用しやすいシステムだと感じています。管理者側でのクラス登録や教材作成、教科反映等がややわかりにくいため、この辺りのUIが一新されればより親切なシステムになると思います。

導入から現在に至るまで、弊社担当者の対応はいかがでしたか。

髙木様:単に我々の言うことを鵜呑みにしたり、要望をただ実現したりするのではなく、いろいろな大学と取り引きされるなかで得た情報や意見を我々にぶつけてくれます。お互い協力してより良いものを作っていこうという姿勢を感じますし、パートナーとして非常にいい会社さんだと思います。

若林様:「できない」とは言わず、「できる方法を探す」という姿勢でいつも対応してくれるので、非常に助かっています。

オンデマンド授業の作り方はリアルな授業とまったく違う

KICSオンデマンドの特徴の1つにコンテンツの質の高さがあると思いますが、どんな工夫をされていますか?

髙木様:最初は対面授業用のスライドを使って収録し、オンデマンド配信していましたが、スライドの文字が多すぎて見づらかったり、スライドのみだと飽きられてしまったりということがありました。そこで、教員と我々職員が一体となってスライドのデザインを一から考えて作り直しました。また、スタジオで教員の顔、表情、身振り手振りなどを含め収録したものをスライドと合成して配信するという工夫をしています。

若林様:あとは、”ブレイクタイム”を授業の合間に入れて、最後まで飽きずに学生に視聴してもらえるような工夫も取り入れています。

“ブレイクタイム”とは何ですか?

若林様:先生の趣味や旅行の思い出を話していただくワンコーナーです。授業とは別の場所で、わざわざ先生の服装まで変えて撮影し、授業動画に盛り込んでいます。
髙木様:ロケ撮影することもあります。これらも内製していて、すごくこだわって作っています。

こうしたコンテンツ作りにおけるこだわりはどこから来ているのでしょうか?

若林様:「既存の授業をそのままオンデマンド化する」という概念が最初はどうしてもありました。でも、オンデマンド授業はあくまでもオンデマンド授業。リアルな授業とは違いますし、当然求められるニーズも違う。そこに気付いてからはそのニーズに積極的に応えようという方向に転換しました。

オンデマンド授業ならではのコンテンツの作り方、そのための工夫をしっかり実践されているんですね。

若林様:YouTubeに寄せているようなイメージですよね。字幕がちゃんと表示され、絵や写真だけでも先生が言わんとしていることがわかる。今の大学生にとったら当たり前かもしれませんが、でも、そういった工夫をきちんと盛り込んだオンデマンド授業が繰り返し視聴され、学生の理解度が高まるのは必然と言えば必然なんだろうと思います。

大学におけるオンライン教育の意義と今後の取り組み

大学教育において、いつでもどこでも学べることの意義についてはどのようにお考えですか?

若林様:居住地や時間に囚われることなく学習できる環境は、大学という概念さえも変化させるものと確信しています。近畿大学は、創設者 世耕弘一の「学びたい者に学ばせたい」という理念に基づいて設立された大学であり、質の高い授業を時間や場所の制限なく提供できる授業のあり方は、本学の理念に非常に沿っていると個人的には考えています。たとえば、これまでは別キャンパスで行われていた他学部の授業もオンラインで履修することが可能となるでしょう。総合大学の強みをフルに活かし、経営を学んだ薬剤師など多様な人材育成につなげられるのではと期待しています。

髙木様:自宅と大学の距離が遠い米国の大学等ではオンライン教育は当たり前で、学生の利益はもちろん、大学業界の発展にも欠かせません。今後もオフライン・オンライン・オンデマンド、それぞれを使い分け、教育の質的向上に努めたいと考えております。

ありがとうございます。最後に、今後の取り組みの方向性をお聞かせください。

髙木様:引き続きログを活用したデータ分析に取り組む予定です。オンデマンド授業は作って終わりではありません。せっかく細かいログを取得できるのですから、これを活用しない手はありません。近畿大学は学習ログを活用し、より良い教育環境の提供に邁進してまいります。

若林様:大学の通学課程において、多様なメディアを活用した授業は今のところ60単位までしか認められていません。コロナ禍では特例でこの上限が撤廃されていましたが、今後はオンデマンド授業やオンライン授業をいかにカリキュラムに組み込んでいくのかが、大学に課せられた新たなステージなのかもしれません。そういった意味では、学生1人1人がオンデマンドで何単位を取得したのかという管理が今後必要になりますから、トップランナーであるデジタル・ナレッジさんにはLMSにそういった機能を盛り込んでもらえたら非常に面白いと思いますし、期待しています。



ご利用いただいた製品・サービス

お客様のサイト

https://www.kindai.ac.jp/

お客様情報

名称 学校法人近畿大学
設立 1943年
所在地 大阪府東大阪市小若江3-4-1

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