株式会社タダノ
ひやっとする危険、実際に味わった―― 「eラーニング×基本教育」「VR×安全教育」を実践!世界大手クレーンメーカーが考えるこれからの人財育成


たちが日常的に利用するビルの建設に、災害でダメージを受けた地域の復興に、あるいは遠く離れた途上国における地域開発に、国内外問わずあらゆるところで人々の暮らしを支えているのが世界大手のクレーンメーカー、タダノの建設機械です。世界で通用する高い技術力、そして安全性はどのように育まれているのでしょうか。この夏、香川県の本社にある教育センターで目にしたのは、7年にわたるeラーニングの実践やVRによる先進的な安全教育の取り組みでした。インタビューでは、2019年8月29日に記念すべき創業100周年を迎えられたその後の展望、これからの人財育成の方向性についてもお聞きすることができました。

株式会社タダノ様

株式会社タダノ
サービス企画部 教育センター長 石川隆志様(右)
教育センター 主査 米谷学様(左)

eラーニング×基本教育

  • クレーンの取り扱いやメンテナンスの基礎教育をeラーニング化。
  • 本社の講習を受ける前に入門コース(eラーニング)の100%受講を達成。
  • 日本語のほか英語、中国語、タイ語等のコンテンツを制作し、海外でも活用へ。
  • マイクロラーニング×ゲーミフィケーションによる eラーニングの学習効果アップを目指す。

VR×安全教育

  • 事故事例を基にした全12の体感型安全教育を開始。そのうち「ワイヤ交換時の巻き込まれ体験」「タイヤ挟まれ疑似体験」など6講座でVRを活用へ。
  • 今後はeラーニングとVRの融合(eXラーニング)や、故障診断におけるVR・ARトレーニングの実用化にトライする。

基礎教育にeラーニング導入。社内プレゼンを繰り返した7年前

まず最初に、現在のeラーニングの使い方をお聞かせください。

石川様

石川様:香川県の本社内にある教育センターで、クレーンの取り扱いやメンテナンス、修理方法などの技術講習を実施していますが、その基礎にあたる知識教育の部分をeラーニングで提供しています。対象はサービスマンと呼ばれる弊社の社員、指定サービス工場のスタッフ、海外代理店の方々です。

以前の技術教育はすべて集合教育でしたか?

石川様:そうですね。サービスマンが担当する各指定サービス工場へ出向いて直接説明をしたり、本社まで講習を受けに来てもらっていました。ですが、対面でなくても学べる内容がありますよね。2012年当時、業務改善プロジェクトの中にWebで学習するシステムを作って欲しいという要望があり、教育センターがeラーニング構想を発起し、システム選定やコンテンツ内製に取り掛かりました。かなりの時間と労力を掛けて取り組みました。

なにが一番大変でしたか?

石川様:“eラーニングを理解してもらうこと”です。当時はeラーニング自体がまだあまり知られていませんでしたから、反対意見も多くて……。どうすればいいのか悩んだ末に、一つの答えにたどり着きました。eラーニングを使った新しい教育の形を見せるためのプレゼンテーションをしたのです。思いのほか反響が大きく、スティーブ・ジョブスがプレゼンを大切にしている意味が分かりましたよ。 実は以前、別のeラーニングシステムを使っていました。現在のものとは用途も規模も違いますが、文章でテストが出題され正しいのを選びなさいというものでした。でも、そんなeラーニングばかりだったらやりたくなりますか?やりたくないですよね(笑)。だからどのような見せ方にするか、何を教材に選択するか、いかにして浸透させていくのか。そういったことを試行錯誤しながら進めました。

弊社のシステムを採用された決め手は何でしたか。

石川様:先ずはLMSとしての必要な要素がすべて揃っていました。しかも全体のバランスが良く、教材を簡単にパワーポイントで作ることができ、アニメーションや動画のアップロードも難しくありませんでした。メンタリング機能も比較した中では充実していました。もちろん価格的なものもありました。総合的にベストな選択をしたと思います。 もう一つ懸念していたのはアフターフォローです。パッケージ買いしてあとは勝手にやってください、ではなかなか続けていけません。その点、デジタル・ナレッジさんには、導入後にうちの管理者を何名か受け入れ研修を受けさせてもらえました。非常に有難かったですね。

現在、eラーニングと集合研修のバランスはどうなっていますか。

石川様:本社の講習を受ける前にeラーニングでの入門コース(基礎学習)を義務化しました。知識学習は各自で行い、実機やシミュレーターを使わなければ理解が進まない内容については集合研修で行っています。いわゆるアクティブラーニングとよばれる形ですね。今では受講率100%を達成しています。

eラーニング導入後、どのような変化がありましたか。

石川様:一番良かったのは、教える者に時間的な余裕がなくても、教えられる者が自ら学べる環境を作ることができたことです。eラーニングには修理に役立つ情報なども載せていますので、修理技術も上がり、お客様に対するサービス技術力が向上しました。これは非常に良かった点です。

修理に役立つ情報とは例えばどんな内容ですか?

株式会社タダノ様

石川様:クレーンに異常が起こったとき、故障診断用のPCを使ったトラブル対応のやり方があります。eラーニングではその診断機の使い方をわかりやすく学ぶことができます。eラーニング上で実際の診断機の画面を見ながら「まずは配線を接続します」「次にこの画面になるのでここをクリックしましょう」といった具合にレクチャーしてくれます。また、新製品講習にもeラーニングを使っています。

単なる知識教育に留まらず、実践的な内容までeラーニングがカバーしているんですね。

石川様:日本語以外にも英語、中国語、タイ語等に対応し、海外でも使われています。社外での評価も上々です。

スマホ対応、マイクロラーニング、ゲーミフィケーション。eラーニングをさらに進化させたい

一方で、eラーニングを導入されて7年経った今の課題は何でしょうか。

石川様:導入当初はPCでの受講を前提としていたため、スマホ対応ができていないという問題があります。

PCでの受講が前提ということは一コンテンツの時間も長かったりするのでしょうか。

石川様:長いですね。一つのコンテンツに章節が非常に多く、受講に数時間かかるものもあります。サイズもPCの画面を想定して作っていますからスマホで見ると小さくて見えません。そもそも、Flashを使ったアニメーション教材のためiPhoneなどでは視聴できないんです。Flashは2020年以降サポートがなくなりますし、今あるコンテンツをどう改善していくかというのは大きな問題です。

今後目指されるeラーニングの方向性をお聞かせください。

米谷様

米谷様:今後は「マイクロラーニング」にシフトしていきます。今は一コンテンツが「電気の入門」といった大きな括りになっていますが、それを「スイッチ」のようにもっと細分化してタイトルも分かりやすくし、受講者が今知りたいことを探しやすいものにしていく必要があります。 さらに、受講者が自発的に受講したくなるような仕組み「ゲーミフィケーション」を掛け合わせたいと考えています。例えば、クレーンの故障原因を見つけるゲームを作ったらどうでしょう。楽しみながら故障診断の疑似体験ができるゲームがもしあったなら私は毎日でもしたいですよ(笑)。必要な知識は、全てゲームで学べるってすごいと思いませんか?
勉強が好きな人はいいですが、正直な話、そうじゃない人の方が多いのではないでしょうか。今後は、“勉強”という意識を持たずにできる教育研修が求められていくと思います。私たちは「マイクロラーニング×ゲーミフィケーション」という学習スタイルを構築し新たな価値を生み出したいと考えています。

安全教育にVR導入。「自分の手が巻き込まれる感覚、リアルに味わった」

さらに、eラーニングと並ぶもう一つの教育ツールとして、VRの活用をスタートされています。

石川様:今事故事例を基にした12の体感型安全教育を昨年より開始しました。そのうち「ワイヤ交換時の巻き込まれ疑似体験」「延長パイプの跳ね返り疑似体験」など6講座でVRを活用しています。

なぜ安全教育にVRを導入されたのでしょうか。

石川様:VRを推したのは私です。ある展示会でVRを使った安全教育を体験したときに、これはいいと直感したんです。VRなら実際に作業をしている実感がわきますし、誤った行動をとれば重大事故につながるという感覚が体に刻み込まれます。安全教育の有効性をより高めることができると感じました。

画面1

VRを用いた体感講座①
「ワイヤ交換時の巻き込まれ疑似体験」

クレーン車のワイヤ部分を交換する際に、手袋が引っ掛かって巻き込まれ指を損傷してしまうというコンテンツ。実際の環境では大声をあげても騒音により運転者に声が届かない可能性がある。社内やグループ会社であった事故をもとに作成された。

画面2

VRを用いた体感講座②
「延長パイプの跳ね返り疑似体験」

クレーン車修理の際に、外れたパイプが跳ね上がりあごを強打して大けがをするコンテンツ。一人称視点・三人称視点の両方を見ることで、共同作業時の危険性を再認識できる。講座①②は大きな装置とVRを組み合わせたコンテンツで受講者はVRゴーグルを装着して機械を操作する。(ジョーソンドキュメンツ制作)

お客様の声

「ワイヤ交換時の巻き込まれ疑似体験」 受講者の声
「事故現場にいるように感じ、実際に自分の手が巻き込まれるような感覚を味わいました。VRだから安全だとわかっていても怖いと思いました。映像等で受ける講習より分かりやすく貴重な体験ができました。」

私もクレーンの上から転落するVRコンテンツを体験させて頂きましたが、VRゴーグルを着けた瞬間から本当に臨場感のある世界が広がっていて、足がすくみました。

石川様:一歩歩くとVRで見ている景色も一歩進みましたよね? 今まではこうした自分の動きに連動するタイプのVRコンテンツは製作したことがなく、製作会社のアルファコードさんと一緒に試行錯誤して作り上げました。

画面1
画面2

VRを用いた体感講座「RCブームからの転落疑似体験」(アルファコード製作)

高所作業の危険性と安全帯の重要性を再認識するためのコンテンツ。筆者も体験したが、高所から落ちる感覚もリアルで思わず腰がひけてしまった。安全への意識の高まりは映像などで見るのとは格段の差がある。

VR導入前の安全教育はどのように実施されていたのでしょうか。

石川様:テキストを読んだりビデオを見たりしていました。こういう危険があるんだということは、頭では分かるんです。でも、なかなか自分事にはならなかったですね。

VRを入れてからはどう変わりましたか。

石川様:受講者のレポートを見ると怖いという意見が多く、意識が変わってきたのを感じます。VRを体験するとひやっとする感覚が刻み込まれ、経験として自分が本当に落ちたかのような気持ちになり、それが実際に気を付けないといけないという気付きにつながります。また管理者の方も、今後はこれをやっていかなければという意識へと変化してきているようです。

VR教育を行うためにはどんな設備が必要ですか?

石川様:映像重視の場合は設置型VRです。特定されたスペックのPCや設置スペースが必要となります。設置スペースのコーナーにセンサーを置いて、その中での動きをトラッキングしますが、その設置に手間がかかりますし、本社に来ないと体験できませんでした。 一方、体験いただいたのはスタンドアローン型(一体型)です。PCや他の機器に接続することなく、単体でVRを体験できます。空間の中で自由に動くこともできます。VRゴーグル自体がそんなに高価ではないので、拡張性が高いのも利点です。今後はスタンドアローン型VRを使って、もっと体験しやすいものを作っていく予定です。

本社に来なくても各拠点でVR体感講座が受けられるようになりますか?

石川様:VRゴーグルを貸し出しすれば全国、いや海外でもどこでも受けられます。ちょうど昨日、ドイツで使いたいという話があり、今度ドイツに貸し出す予定です。VRゴーグルはユーザーインターフェースが多言語に対応しているんです。

今後はeラーニングとVRの融合もあり得ますか?

石川様:VRをeラーニングに載せ、スマホで体験できるようになればより幅広く教育が展開できますし、学習履歴も残ります。そういったことも含めて検討していきたいですね。

これからの教育研修は「経験」「体験」がカギ

いち早く安全教育にVRを導入されるなど、新しい技術の活用に積極的で挑戦し続けられている姿勢が印象的です。そこにはどのような思いがあるのでしょうか。

株式会社タダノ様

米谷様:我々が取り扱う建設機械は、その使い方を誤れば大変危険なものになり得えます。そのため弊社ではコアバリューの一位に「安全」を掲げ、安全に対する意識向上が命題となっています。 ただし、安全教育のためだけにVRを採用したわけではありません。今後は、安全教育に限らず、故障診断などにおいてもVR・ARを使ったトレーニングを実施していきたいと考えています。VRの仮想空間で訓練を繰り返すことによって経験を積み、技術力を伸ばすことができます。ARについては遠隔から作業指示を出して故障を直すといったことが可能になります。以前では考えられなかったことが、ここ数年の技術の進化でできるようになってきています。これを使わない手はありませんよね。

VRは、現実では再現しにくい体験や繰り返しのトレーニングにも効果を発揮すると言われています。これからの教育研修は、能動的な「経験」や「体験」が大きな意味をもつようになるのでしょうか。

米谷様:経験や体験はやはり重要なポイントとなっていくと考えています。仮想空間の中で疑似的なトレーニングを積み、“自分ができた”という成功体験を作ることができれば、実際に現場で修理をする際も対応できるようになります。 自分が体験するのも大事ですが、人に教えるという経験はそれ以上に自分の勉強になります。しかし、どうやって教えるのかが分からない人が増えています。その原因は教えられる側と同様に未経験による“失敗”への“恐れ”だと考えています。この問題を解決するには従来のやり方(OJT)では困難だと考えています。何故ならば教える立場の人(講師)へのリアルタイムサポートが必要だからです。それを実現するのは“バーチャルトレーナー(VT)”です。VTはAIによるチャットボットのようなもので新米講師には強い味方となるでしょう。しかも万能なので安全教育のみならず製品の取扱方法や故障診断等の様々なカテゴリーにも対応し活躍してくれることでしょう。まだまだ構想段階ではありますが他の業界にも適用し拡張性があるのではないかと期待しています。



ご利用いただいた製品・サービス

※文中に記載されている「RCブームからの転落疑似体験」をはじめとしたタダノ様の安全教育用8Kの実写を用いたVRコンテンツは、株式会社アルファコード様が製作しております。

お客様情報

名称 株式会社タダノ TADANO LTD
設立 1948年8月24日
従業員数 単独1,428名、連結3,405名(2019年3月31日現在)
本社 香川県高松市新田町甲34番地

プライバシーマーク








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