辻󠄀調グループ【インタビュー】
この10年で教育の在り方が劇的に変化!変わらないまま進化する“世界三大料理学校”辻󠄀調が目指すもの


辻󠄀調グループとは、創設者・辻󠄀静雄の<建学の精神><ビジョン>を共有し、教育の実践的研究を目的に形成された、辻󠄀調理師専門学校、辻󠄀製菓専門学校、エコール 辻󠄀 大阪、エコール 辻󠄀 東京、辻󠄀調グループフランス校からなる「コンソーシアム」の総称。カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ(CIA)、ル・コルドン・ブルーとともに世界三大料理学校に挙げられ、これまで輩出した卒業生は14万人を超える一流校です。そんな辻󠄀調グループは2009年にeラーニングを導入、その後の10年で教育の在り方が大きく様変わりしたといいます。辻󠄀調グループにとってこの10年はどのような10年だったのでしょうか。同校の校長特別補佐であり、辻󠄀静雄料理教育研究所の所長も務められる山田様、同研究所の大西様、高田様にお話を伺いました。

辻󠄀調グループ様

学校法人辻󠄀料理学館(辻󠄀調理師専門学校・辻󠄀製菓専門学校)校長特別補佐
株式会社辻󠄀料理教育研究所 辻󠄀静雄料理教育研究所 所長 山田 研様(右)
教育研究支援部門 高田 俊様(中央)
教育研究支援部門 大西 圭祐様(左)

eラーニング導入の背景

  • 製菓衛生師試験対策ドリル(紙)からの置き換えとして2009年にeラーニングを初導入。次いで、AO合格者用の入学前学習にも利用することになるが、当初は一部の卒業生や入学予定者に対する限定的・補足的な使用に留まっていた。
  • 近年では辻󠄀調グループのほぼすべての学校・学科でeラーニングを活用。学生が主体的に考え学ぶ教育の実現に貢献している。

近年のeラーニング活用におけるポイント

  • 実習の作業工程をすべて動画コンテンツ化。学生は事前に動画を視聴し、作業のポイントを整理してから実習に臨むことで授業の質をさらに向上させ、学習効果を高めている。
  • 従来授業で行っていた座学の講義部分も一部eラーニング化。授業ではこれまでになかったディスカッションやグループワークも行なわれるようになり、学生自身が主体的に考え学ぶことを重視する教育へと大きく変化しつつある。
  • 繰り返し視聴できるeラーニングは、とくに留学生にとって格好の自己学習ツールとなっている。
  • 通学時などに立ったまま利用できる、スマホを使ったマイクロラーニングのツールとしても活用されている。
  • 教職員向け研修(FD・SD)でも利便性を発揮している。

この10年で教育の在り方が劇的に変化

辻󠄀調グループでは現在eラーニングをどのように使われていますか?

山田様:事前学習教材としての使い方がメインです。包丁を研ぐ、食材を切る、煮る、焼くといった実習の作業工程もすべて動画コンテンツ化しており、学生は事前にその動画を見てから授業に臨みます。

いわゆる反転学習とよばれるものですね。取り入れていらっしゃるのはなぜですか。

山田様:実習で学生に調理をさせると、事前学習で手順は頭に入っているはずなのにどうも満足いくところまでに至らない。「どうもできないな」「何が違うんだろう」という気持ちになったところで先生が見本を示すと、学生は絞り切ったスポンジが水を吸収するが如く、きゅうっと吸収してくれるんです。

画面1

学生は事前に動画を視聴し、作業のポイントを整理してから実習に臨む。

画面2

事前学習で理解を深めた状態で実習を開始。より密度の高い実習ができ、学習効果も上がっている。

辻󠄀調グループ様

西洋料理、日本料理、中国料理と多彩な料理ジャンルに対応した加熱設備が完備された辻󠄀調理師専門学校の大講義室にて。

山田様:いろいろなことを話しながら実践する料理の授業はじつは情報量がとても多く、くまなく見聞きして自分のものにするのは至難の業でした。反転学習で授業内容を先出しする方が従来の授業よりどうも効果的ですね、というような現場の教員も少しずつ増えてきて、まさに狙っていた教育がようやく花開いてきたかなという印象です。

とくに辻󠄀調様のように手を動かして習得する技能部分が大きい教育において、eラーニングはどういった役割を果たしていますか。

山田様:手を動かすという点においては器用な人もいれば不器用な人もいて、不器用な人の中には時間はかかるけれどもすごく上手にできるようになる人もいますよね。ですが学校が提供できる授業時間は限られていて、その個人差を埋めてあげることがなかなかできていませんでした。そういった部分を埋められる自習補助ツールとしても、自分の理解度に合わせて何度でも繰り返し視聴できるeラーニングは非常に優れていると思います。

講義だけの授業でもeラーニングは使われていますか?

高田様:辻󠄀調グループのほぼすべての学校、学科で導入しており、今や使っていない授業や科目はほとんどありません。
山田様:例えば「衛生法規」という授業があります。製菓衛生師として知っておくべき関連法規を勉強する科目ですが、学生からするとあまり面白みのない授業でした。この授業を反転させ、授業内で行っていた講義部分はeラーニングで事前学習し、授業ではディスカッションやグループワークに時間を割くようになりました。学生の集中度がまったく変わりました。

学生が主体的に考えて学ぶスタイルに変化したということですね。辻󠄀調グループの辻󠄀芳樹校長も「学生が受け身で技能を覚える教育ではなく、探求心や好奇心を持って学び取る教育を目指している」とおっしゃっていますが、つまりeラーニングによる変化は、動画コンテンツを配信できるようになったというような単純な話ではなく、授業の進め方や教育の在り方自体が進化したということでしょうか。

山田様:おっしゃる通りです。eラーニングを導入した2009年からの10年間において、単に「動画が配信できます」といった状態のときも確かにありました。当初は、卒業生や入学予定者など一部の人に対する補足的・限定的な使い方だったからです。それがこの10年で本当に様変わりしました。

できない問題を繰り返し出題。「アダプティブラーニング」など進化する教育テクノロジーへの期待

この10年の変化はほかにもありますか? 例えば学生側の変化という意味ではいかがでしょう。

高田様:海外からの留学生が急増し、今や1クラスのうち1割程度を留学生が占めます。留学生は基本的に日本語能力試験N2以上を入学基準としていますが、実際の日本語レベルにはやはり差があり、授業内容をすべて聞き取れない人もいます。ここでも、自宅で繰り返し予復習ができるeラーニングが随分役立っていると思います。
山田様:それから、当初はPCでeラーニングを受講することを想定していましたが、今ではほとんどの学生がスマホ視聴です。それに伴い動画コンテンツの傾向も変わりました。かつては数十分の長いものでしたが今では5分程の短い動画が主流になってきています。

マイクロラーニング(*1)とよばれる手法ですね。どのように活用されていますか?

山田様:短い動画を何本か連続させシリーズ化したり、同じ作業が異なる料理で出てくる場合は動画を組み合わせて視聴するといった使い方になってきています。また、実習中に学生同士がペアになって撮影し合うことで、自分の作業を振り返ったり互いに評価をしながら練習を重ねる取り組みもしています。少し前までは“授業中はスマホ禁止”というルールがあり、「留学生が辞書替わりに使いたいと言ってるけどどうする?」みたいな議論もありましたが、最早そんなことを言っていること自体がナンセンスになってきています。教育の在り方がものすごいスピードで変わってきていますし、この先もさらに進化していくんだろうということを、つくづく感じるこの10年でした。

(*1) 5分程度にマイクロ化されたコンテンツを短時間で効率的・効果的に学ぶ新しい学習スタイル。知識獲得から試行までを短いサイクルで回すことによって、効率よくスキルを獲得し、学習効果を上げていくのがマイクロラーニングの本質とされる。短時間のコンテンツのため集中力が途切れず、調べものをする感覚ですぐに学べて実践しやすいマイクロラーニングは、学習内容やスキルの定着、行動変容の促進が期待されている。
画面1

教職員向け研修(FD・SD)にもeラーニングを活用。教育の在り方そのものが進化するなか、インストラクショナルデザイン(ID)などの勉強にも教員が積極的に取り組んでいる。

一方で、eラーニングの課題としてはどのようなことが挙げられますか。

山田様:出題が陳腐化しない仕組み(*2)です。動画以外にドリル(テスト教材)も使っていますが、できない問題が繰り返し出題されたり、出題順や答えの位置がランダム提示されるといった仕掛けがもっと簡単に仕込めるようになれば、さらに有用なツールになるのではないでしょうか。

(*2)出題が陳腐化しない仕組みとして、AI技術を活用した『アダプティブラーニング』がある。受講者の学習理解度や弱点などに応じたテスト問題を、AIが問題群から抽出し出題する仕組みだ。テクノロジーの進化で受講者一人ひとりに最適化された教材の提示や出題により、よりきめ細かい教育を行うことが可能となってきている。
▼デジタル・ナレッジが2019年6月に公開したAIによる学習最適化
AI-Adaptive モジュール
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“変化し続ける最前線のものを“ 食の研究は教育機関としての使命

ところで、辻󠄀静雄料理教育研究所では教育や研修以外にどのような活動をされていますか。

大西様:元々はうちの学校が携わっている書籍の制作・編集を手掛けていましたが、ここ数年は食に特化した研究を推進し、業界の発展への寄与を目指す研究機関(令和元年度文部科学大臣指定申請予定)としての活動を活発化させています。

最近の取り組み①
JAXA(宇宙航空研究開発機構)との宇宙食開発

月面基地での長期滞在や一般人の宇宙旅行などが計画段階に入った今、宇宙食にも、生命維持ばかりでなく、食事としての楽しみが求められている。宇宙特有の様々な制約をクリアしながらいかに“おいしい宇宙食”を作るか、それを作る人を作るか、まずは学生の授業課題として取り組みをスタートさせた。

最近の取り組み②
日本ジビエ振興協会との共催セミナー

安全でおいしい加熱方法や取扱上の留意点など、科学的な根拠に基づいて、家畜とは異なるジビエについての正しい知識や確かな調理技術を伝えるセミナーを全国で開催。鳥獣被害の軽減や地域貢献として期待されるジビエの利活用推進と業界全体の発展に貢献している。

山田様:料理は科学的に見てもまだまだ分からないことも多く、時代によってもまた変化します。だからこそ研究ベースの姿勢で「変化し続ける最前線のものをお伝えしましょう」というスタンスが重要だと考えています。

教育手法が進化しても創設以来の信念はそのまま。言葉にできない「おいしい」さえ言語化して伝えつづけたい

研究所の果たす役割はとても重要なんですね。最後に今後の展望をお聞かせください。

山田様:今、『言語化』というのが我々研究所メンバーの大きな課題としてあるんです。

言語化、ですか?

山田様:シラバス(講義概要)を作るときなんかによく「コツ」という言葉が出てきます。コツとはつまり先生のそれまでの経験から得た知見や、先輩方から「こういうふうにすればうまくいくよ」と言われたポイントだったりしますが、具体的に言葉で説明しようとすると、これがなかなか難しいんです。

経験や積み重ねからくるカンのようなものを形式化するのは確かに難しそうです。

山田様:長年辻󠄀調はおいしさを追求してきました。それでも、「おいしさ」って何なのか、と問われると答えるのは難しい。しかし、今まさにそういうことが問われていると思うんです。今後ますます海外の人とのコミュニケーションの機会は増えます。これまでなら日本人同士のあうんの呼吸で通っていたものでもはっきりと言葉にしないと伝わらない、というようなことも増えてくるでしょう。そうした意味でも、“感覚的にはわかるけれどもなかなか言葉にできないもの”こそが、今後重要な意味を持つようになると考えています。

そういった意味では、創立以来長い年月をかけなかなか形式化できない、ある種文化のような価値を作り上げてこられたというふうにも言えると思います。料理の学校でありながら、ただ料理を教えているだけではない奥深さを感じました。

山田様:ただ技術を教えているわけではないというのはまさにその通りで、「辻󠄀って単なる料理学校とかお菓子教室じゃないから」と事あるごとに学生たちへ、そして自分たちへのある種の戒めのように言っている部分はありますね。
大西様:創設者の辻󠄀静雄自身が各国の料理を文化的な背景も含めて探求し、学生に伝えたり自分の著書の中に書き表したりしています。そうした文化的な蓄積を大切に継承しつつ、さらに科学的にもいろいろなことを言語化できるように探求を続けていくというのが、これから私たちが目指す方向性です。
山田様:辻󠄀静雄はたしかに研究者であった、といっていい人だと思います。料理を歴史や文化の流れの中でとらえ、世界中から文献を集め、妥協をすることなく研究したのが辻󠄀静雄という人でした。教育者としてもまた、本物を教えることに重きを置いていました。

辻󠄀調グループ様

辻󠄀静雄氏の著書。その圧倒的な厚みとディテールは海外の料理人も参考にするほどだという。

そうした精神、信念が創設以来変わらず、この研究所と辻󠄀調グループ全体に引き継がれているんですね。

山田様:どこまで引き継げているか心もとないところはありますが、信念や思いは変わらないまま、具体的な手法に関しては時代時代にフィットしたものに切り替えつつ、来年の創立60周年からまた新しい10年へと未来を見据えていきたいですね。



ご利用いただいた製品・サービス

お客様のサイト

https://www.tsuji.ac.jp/

お客様情報

名称 辻󠄀調グループ
設立 1960年 大阪・阿倍野に辻󠄀調理師学校設立
所在地 大阪市阿倍野区松崎町3-16-11

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