Vol.2 外食産業と教育ICT

「ロボット化」と「日本的おもてなし」
二極化が進む外食産業、その課題と10年後の在り方

株式会社 フードリンクグループ
代表取締役 安田 正明 氏
株式会社フードリンクグループ 代表取締役 安田 正明 1枚目

デジタル・ナレッジ社はeラーニングという言葉がうまれる前の1995年に創業し20年以上にわたり教育や研修に携わってきたが、学校や企業から寄せられる要望やニーズには時代ごとに共通する傾向がみられる。

ここ数年で急増しているのは、直営・フランチャイズを問わず多店舗展開する外食系企業からの引き合いである。動画による学習が一般的となり、受講デバイスがスマートフォンやタブレットになったことで、店舗現場スタッフの教育手段としてeラーニングが急速に普及している印象だ。

実際の外食産業の現場ではどのような背景やニーズがあるのだろうか。また将来的にはどのように発展していくのだろうか。 24年間に渡り外食産業専門のメディアを発行し、マーケティング支援を行っている「株式会社フードリンクグループ」にコンタクトし、外食産業の現在とこれからを伺うことにした。

大変ご無沙汰しております。安田社長とはかれこれ十数年前からご面識をいただいておりますが、外食といえばフードリンクグループさん!ということで今日はお伺いしました。どうぞよろしくお願い致します。早速ですが、読者の皆様に現在の活動をご説明いただけますか。

安田氏: 「フードリンクニュース」という外食のWebメディアを運営しています。1994年の創刊以来、飲食業界の旬な情報、ニュース、トレンドを発信し続けてきました。

今年で創刊24年になるんですね。

安田氏: このフードリンクニュースをベースに、外食のリサーチ関係を多数手掛けています。商品開発のための飲食店へのアンケートリサーチやテストマーケティング、商品化後のプロモーションや売れ行き調査などです。1997年から始めた「覆面調査」は、飲食店の顧客満足度をアップさせる手法として、お陰さまで好評です。

覆面調査員の養成講座では、N-Academyでもお世話になっています(*)。幅広い事業の根幹となっている「フードリンクニュース」は、おもに飲食業界の方向けに発信されているものでしょうか

安田氏: ターゲットは絞っていないんです。業界の人はもちろんですが、グルメ好きの個人の方も含め、世の中に広く見てほしいと思っています。業態とか関係なく、ただ面白いニュースを提供し、その中から自分も飲食業をしたい、独立したいという人が出てくれば最高ですね。

(*)オンライン学習サイト「N-Academy」
サービス・インスペクター認定講座
https://n-academy.jp/si/

フードリンクニュース 「フードリンクニュース」Webサイト

「S1サーバーグランプリ」も手掛けていらっしゃいますよね。

安田氏: S1サーバーグランプリは仲間内で始めた企画で、NPO法人を立ち上げて運営しています。サーバーとは飲食店でサービスする人、つまり接客ナンバー1を決める大会で、今年でもう14回目になります。各地区から勝ち上がった優勝者が東京に集まり、数千人の前で接客などを披露します。

S1サーバーグランプリ

「S1サーバーグランプリ」Webサイト
http://hanjyoten.org/

サービス技術向上やスタッフのモチベーションアップ、業界の地位向上を目指す場として、さらに他店との交流や情報交換など、サーバーにとって様々な気づきや刺激を受ける場としても注目されている。

今、外食産業が抱える課題にはどのようなものがあるのでしょうか。

安田氏: 一つは、人材確保の問題です。求人をかけてもかけても人が来ない。求人コストを相当かけても集まらないのが現状です。とくに居酒屋なんかは厳しいですね。 もう一つは、離職率の高さです。ある日突然バイトに来なくなるとかLINEでひと言「辞めます」という連絡がくるとか、よく聞きます。

日本人アルバイトスタッフの外食産業離れがあるなか、外国人採用は進んでいますか。

安田氏: ものすごく進んでいます。ある居酒屋チェーンのスタッフはほぼベトナム人ですし、外食産業は外国人スタッフに支えられているといってもいいくらいです。今ね、日本語が話せるかどうかは問題ではないんです。なぜならタッチパネルで注文するから。アルバイトスタッフには番号が振られたテーブルに料理を運んでもらって、空いたお皿を下げてもらえればいいんです。その方が間違いもないし人手も省ける。最近はどんどんそういう発想になってきているように感じます。“なるべく教育不要な世界に”というのが、最近のひとつの流れでしょうか。

株式会社フードリンクグループ 代表取締役 安田 正明 2枚目

なるほど。オートメーション化を進めていく業態が増える一方で、より高い質を追求する外食の流れもありますよね。

安田氏: そうですね、間違いなくあります。一流店、高級店では、お客さんも人による行き届いたサービスを求めますし、当然スタッフ教育にも力を入れています。そういったお店で働く人は飲食業で食べていきたいという強い意思を持っていて、厳しい教育にもついてくる傾向があるようです。

インタビュアー

今、外食産業の市場は約25兆円です。 御社は「外食をつなげて30兆円市場を復活させる」を理念に掲げられています。不足分の5兆円はどこに逃げていると思われますか。

安田氏: これですよ。携帯電話。

携帯電話、ですか?

安田氏: スマートフォンですね。携帯電話とゲームに相当のお金と時間が使われている気がしてならないんです。

てっきり内食や家飲みに流れているのかと思っていました。

安田氏: それもありますが、外食に限らずいろんなお金がスマホにもっていかれています。そうした人たちの間では、食べ物は安いものでいいんです。居酒屋に行くより、コンビニの弁当を買って家に帰って、とにかく早くゲームをしたい。こういったお金・時間の使い方にシフトしているのではないかと思いますね。

ここでeラーニング戦略研究所として教育ICT活用の提言をさせて頂きますので、率直なご意見を伺えればと思います。一つ目は「AIを相手にした接客話法アウトプット・トレーニング」です。

教育ICT活用提言-01
英語アウトプット型トレーニングの課題

「書く」「話す」を含めた4技能対策が早急に求められる公教育の現場にて導入が進みつつある、AIツール「トレパ」。

AIツール「トレパ」の開発コンセプト
AIを使った接客話法トレーニング

この仕組みを接客トレーニングに活用することで、「いらっしゃいませ」「(注文品が来ていないというお客様に対し)確認しますので少々お待ちください」などのやり取りがAIをトレーニング相手として実践できる。

安田氏: 実は少し前に「S1サーバー資格認定制度」というものを始めたんです。弊社が教科書を作って接客の教育をマニュアル化し、講習会を行っています。また専門学校ではカリキュラムとして採用されています。レベル1~3まであり、座学で知識を教えて、実践は全てロールプレイングで教えているのですが、そのロールプレイングにこのAIトレーニングが使えるかもしれないですね。……これ、画面には人の顔が表示されていたりするの?

今はテキストベースですが、お客さんの顔にしたりすることは可能です。

安田氏: 安田氏:それは人間の顔の方がいいですよね、断然。よりお客さんと対話しているような感じになりますし。

たしかにそうですね。

安田氏: これはひょっとしたら、さっき話の出ていた高級店向けですね。どちらかといえば、人と人とのつながりや細やかな接客が求められるような店でのトレーニングに向いていると思います。

S1サーバー資格認定制度 「S1サーバー資格認定制度」Webサイト

新しい資格認定制度を作って教育をやっていこうと思われたのはどんな理由からだったのでしょうか。

株式会社フードリンクグループ 代表取締役 安田 正明 3枚目

安田氏: S1サーバーグランプリはどちらかというと目立ちたい方向けの世界なんです。ですが、実際に多いのは「目立つのは嫌だけど接客はうまくなりたい」という人たち。そのニーズに答えたかったんです。S1サーバーグランプリが有名になり、どこか個性的なキャラクターが受けるような風潮がありますが、現場ではただ実直に頑張っている人もたくさんいますから。

基本は教室での一斉教育ですか? 座学部分のeラーニング化などもご興味ありますか。

安田氏: eラーニング化はいいですね。現在の座学にあたる部分はeラーニングで、ロールプレイングにはAIを活かせたら面白いですね。AIが「お皿の中に髪の毛入っていたけど?」なんて投げかけてきて、それに対してどう受け答えするか、それを評価していくと。なんといってもロールプレイングが肝ですから。興味ありますね。

もう一つの提言は『業務推進支援システムと学びが一体になった世界』です。EPSS(Electronic Performance Support System:電子業務遂行支援システム)と呼ばれるOJT支援ツールにて、業務管理と学びが一緒になった世界観があるのではないか、という内容です。

教育ICT活用提言-02
ICTによる「学び・資格・仕事」の新しいモデル

これまでは学びと資格と仕事は分断されていたが、実際は現場に立つと新しい気付きがあったり、新しいノウハウが手に入ったりする。

仕事-学び-資格:OJT支援ツール:EPSS
業務学習支援ツール画面イメージ

従来は紙ベース(アナログ)で行っていた現場の作業進捗チェックや業務管理をオンライン化することで、本部でリアルタイムなチェックが可能に。この延長に学びもあり、「トイレ掃除の仕方ってどうだったっけ?」と思ったらすぐにマニュアルが見られるなど、業務管理と学びが一つのタブレットで完結する。

安田氏: 今のところアナログな手法で対応している現場が多いと思いますが、チェーン店など店舗数が多いと楽ですよね。一気に指導ができてしまう。また、本部で全部チェックできるというのも魅力ですね。

最後に、今後の外食産業の展望をお聞かせいただければと思います。10年後にはどのように変わっているでしょうか。

安田氏: 次にくるのはキャッシュレス。クレジットカードやSuicaで決済ができ、注文から会計までテーブルで完結する世界が当たり前になるのではないかと思います。 サービス面では二極化がさらに進むでしょうね。客単価の低い店ではロボット化が徹底され、一方では人による行き届いたおもてなしを提供する高級店がさらにその価値を高める。その両極が生き残るのではないでしょうか。

外食は、家族や仲間とのコミュニケーションの場でもあったかと思いますが、それも変わってくるのでしょうか。

安田氏: 変わらないとは思いますが、ただ、中食などと勝負していくと考えると、コミュニケーションの場ではなくなる可能性もありますね。シンガポールではほとんどの世帯が共働きで晩御飯は屋台で食べるんです。家で料理をするのはお金持ちか料理が趣味の人。そういう意味では日本でも今後外食の意味合いが変わってくるかもしれませんね。

株式会社フードリンクグループ 代表取締役 安田 正明 4枚目

教育面についてはいかがでしょうか。

安田氏: 今の若い人はテレビの代わりにYouTubeを見ますよね。アルバイトスタッフの教育研修も、その延長線上にあるエンタメ感のあるものが求められているような気がしますね。

デジタル・ナレッジ社の事例でも、ドミノ・ピザさんがOJT支援にeラーニングシステムを活用されていて、レベルに応じて学習者を模したアバターが成長するという、いわゆるゲーミフィケーションの考え方を導入されています。

安田氏: ゲームっぽくなってきているんですね。マンガとゲームの世代ですから、つまらないものは見ないし辞めてしまいますからね。そのうちユーチューバーが教育コンテンツを作ってくれたりするようになるかもしれませんね(笑)。

株式会社フードリンクグループ 代表取締役 安田 正明 5枚目

日本の外食ビジネスの始まりは高度成長期のさなか、1960年代だという。それまでは飲食店は個人が行なっていたが、フランチャイズという新しい概念が多店舗化と外食産業を生み出した。それは経済成長とともに発展し、その後、女性が社会進出した80年代、女性や家族連れをターゲットにした事でブレイクしていく。外食は時代背景とそれに伴うライフスタイルに大きく影響されてきた。むしろ、外食がライフスタイルを提案しリードした時期も多かったと思われる。 「バーチャル」(「リアル」の反意語としての)という言葉が一般的ではなかった時代、ライフスタイルを外食(店舗や街)がリードしている時代はよかったが、スマートフォンがライフスタイル変化のリード役になったことでマーケットが縮小したということであれば、安田氏の「スマホに食われている」という話も合点がいく。

安田氏の話の中にはさらに、今後のヒントとなり得るトピックスがあった。「教育はロールプレイングが肝」「教育はよりエンタメ感の強いものへ」「教育不要な世界が一極に形作られている」の3つだ。

たしかに、デジタル・ナレッジ社に寄せられる企業からのオーダーでも「ゲーミフィケーション」「OJT連携」「VR活用」などは外食を中心とした多店舗型業態から始まり、そして数年なりのタイムラグを経て他業界・業態からも同様のリクエストが増える傾向にある。

外食業界の動きを見ることで、時代背景やその他の業界の未来の姿が見えてくるのかもしれないと考えた。アルバイトスタッフへの外国人採用が始まったのも外食産業からだったと記憶しているし、今やそれを前提としたオートメーション化が進んでいる。

外食産業が抱える課題、「周辺業界との競合(コンビニや中食)」「消費者の節約志向」「調達コスト増(人材と食材)」「競争の激化」などは、濃淡あれども他業界でも同様の背景であろうと思われる。私たち消費者としても身近な外食業界を注意深く観察することで、市場とそれを支える人材の変化、ひいてはその変化に対応する教育ICTの半歩先の姿が見えてくるかもしれない。

(取材日 2018/2/9)

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