KnowledgeDeliver7リリース記念第二弾、KnowledgeDeliver7の設計思想

By | 2022年12月22日

前回の記事では、弊社の創業期から弊社の主力商品であるeラーニングシステム”KnowledgeDeliver”の誕生前夜までの話を紹介しました。このようにプロダクトを系統だててまとめたことはなく、過去を体系的に振り返ることで私自身も気づきがありました。

さて、過去への視点から未来への視点へと話を進めましょう。今回は先月末にリリースしたKnowledgeDeliver 7について、その誕生の経緯や考えていることをお話し致します。

KnowledgeDeliverのバージョンアップの考え方

KnowledgeDeliverは年2回〜4回のマイナーアップデートを行い、新機能の追加や使い勝手の向上、ブラウザやOSの新環境対応やバグフィックスを行い、最新のLMSとしての機能を維持しています。さらにこのマイナーバージョンアップとは別に、数年に1度メジャーバージョンアップをしております。

ここ最近のメジャーバージョンのポイントでいうと、KnowledgeDeliver(以降KDと呼称)4系から5系ではアーキテクチャの変更が大きく、開発環境としてASP(Active Server Pages = クラシックASP)から.NET/#Cに変更しました。ASPは廃れゆく技術なので新しい技術へと刷新し、さらに高性能化を推し進めました。

そしてKD5系から6系ではユーザインターフェイス(UI)の変更が大きく、新たに受講者向けUIとしてスマホやタブレットのマルチデバイス環境にも適応したレスポンシブ・ウェブ・デザインを採用しました。それ以前からスマホ向けのUIは有していたのですが、陳腐化を危惧して本格的に対応しメジャーバージョンアップしました。これにより急増するスマホからの利用に最適な環境を提供できるようになりました。

このようにメジャーバージョンアップでは、旧バージョンからのアーキテクチャの変更やユーザインターフェイスの刷新などを行っております。

KnowledgeDeliver 7のメジャーバージョンアップに至った理由

ではこの度リリースのKD7はどういう背景でメジャーバージョンアップに至ったのか?ということですが、アーキテクチャの変更、UIの変更、両方の要因があります。

アーキテクチャについて、KD5/6ではマイクロソフト社の.Net Frameworkを用いて開発を行なっておりました。この.Net Frameworkは2019年にリリースされた4.8というバージョンを最後にメジャーバージョンアップは停止しております。2030年ごろまでマイクロソフト社の保守は受けられるものの、今後の発展が見込まれないディスコン(開発中止:Discontinued)の環境になるので次に乗り換えなきゃというわけです。そこで同じマイクロソフト社の現在の最新の.Net 6という後継環境に移行しました。他にも開発する上での様々な環境を最新版にアップデートしております。この辺りは表からは見えない舞台裏の都合ではあります。

そしてユーザインターフェイス(UI)の変更。先ほどKD5から6の時にレスポンシブ・ウェブ・デザインの話をしましたが、これは受講者側の機能の話であって、管理者機能は旧来のシステムとUIを踏襲して利用していました。ただ、受講者のレスポンシブの画面を見た後で管理者機能を見ると愕然とするんですよね。なんて古いシステムなんだ!と。

他のUIを引き合いにデザインについて深掘りしてみましょう。iPhoneを昔からお使いの方はiOS 6からiOS 7になった時のことを覚えてる方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのiOS 6と7のデザインの差について。

iOS6以前のiOSはスキューモーフィズム(skeuomorphism)と言うデザイン思想に基づいて設計されていました。スマホ上のある機能を指す現実世界のモノを模倣するというアプローチです。例えばカレンダー機能のアイコンなら現実にあるカレンダーを模倣する、立体的な質感やデザインを寄せるのです。全般的に立体的にデザインされ影の効果も多用され浮き上がって見えるようになっていました。ボタンやスライドといった一般的なインターフェイスにも光や影をつけて立体的に、あたかもそこにボタンやスライドがあるように演出していました。(今になって思えば)スマホの黎明期にその機能を現実のモノと結びつける橋渡しのデザインとしてスキューモーフィズムは有効に機能したのだと思います。

それがiOS7になったときに方向転換をしてフラットデザインというデザイン思想のUIに変更されました。その名の通り、立体的というのとは真逆にフラットな平面を志向し、現実世界のリアリティより視認性やスッキリした印象を重視したデザインです。すでにスマホの黎明期を過ぎ、人がどういうふうにスマホと接すればいいかを認知した時、デザインする側も表示するスマホ側もスキューモーフィズムは負荷がかかるので、機能だけをシンプルに見せるフラットデザインは適しています。

2022年の今、iOS 6以前のデザインを見ると、とても重たくて古く見えます。例えばこのページをご覧いただくと違いが端的にわかると思います。統一感やシンプルさ、すぐにその機能とわかる点などでiOS 7以降の現行のデザインは優れています。ただこれは我々にデザインリテラシーのようなものが定着し、そういう感覚を持ち合わせているからであって、当初からフラットデザインで良かったわけではなかったのかもしれません。時代の流れ、人の意識でUX/UIと呼ばれるデザインやインターフェイスの有り様は変化するのです。

さて、話を戻しますが、KD6以前の管理機能は古さを感じてしまうため、KDの管理者機能も最新のモダンなUIに刷新し、見た目も操作感も向上することは不可欠だと思い至りました。

デザインのスッキリさだけでなく、操作の手間を軽減し作業しやすいインターフェイスを提供するというのも狙いです。

ある業務を行うために機能を選択する際に、KD6以前の方法では上位カテゴリを選択してメニュー画面に切り替わり、そのメニューから詳細の機能を選択するというやり方でした。ちょっと手間です。すぐにサッと機能にたどり着けた方が便利です。また管理者の運用は利用する機能が収斂するので、よく使う機能をまとめておいてそこからアクセスするといった工夫をすることで、夥しい機能一覧から実施したい機能を選択する手間をかけず業務を行うことができ、作業負荷は軽減されることでしょう。

さらにそうやって機能を選択して作業を行う際にも、設定項目を入力し終わってOKボタンを押した後に次の確認画面に遷移して確認OKのボタンを押すUIって、ちょっと冗長です。画面遷移と複数回のクリック。この手間を削減すると手間は減り、面倒だなぁという意識も軽減されることでしょう。

さらに作業する中でパソコン上の画像ファイルやCSVデータのファイルを選択して登録するという業務もあります。従来ですと、ファイル選択の画面がポップアップし、パス構造を辿ってファイルを選ぶというインターフェイスでした。一定のわかりやすさはあるものの、最近の感覚で言うとドラッグ&ドロップでも登録したくなります。

機能やスペックという内側の機能だけでなく、人とアプリケーションが接するインターフェイスの改善・調整という表面上の改善は、快適に利用する上では不可欠なのです。

Beauty is only skin-deep. 美しさは皮一枚に過ぎない

この格言は「だから外見ではなく内面が大事だ」というのが本来の意味ですが、ことUX/UIの世界でいうと、その”skin-deep”(=皮一枚)をいかに被せるかで、Beautyが演出できるというアフォリズムでもあると思います。Skin-deepだからと決して侮れません。

 

以上のような背景で、アーキテクチャも最新に、そして管理者デザインも最新にしたいと思ったのです。これがKD7の開発に至った直接的なきっかけです。

掲げた3つのコンセプト

さて、こうしてKD6からKD7へメジャーバージョンアップをしなければならない必然性が生じました。ただ、これだけではKD6の焼き直しに過ぎません。そこで私はKD7開発開始にあたって、以下の3つのコンセプトを掲げました。

1、インテリジェンス&スマート
書籍による自己学習や旧来のLMSでは、あらかじめ学習する内容と順番が定まっていて、学習者はその通りに学習します。一方、ベテランの先生の個別指導では「君はここが分からないから、まずここに戻って基礎をしっかり覚えよう。そこをマスターしたら戻って学習を進めてみよう」など、その学習者の理解度や進捗に合わせた適切な指導を行います。このような考え方をアダプティブ・ラーニング(適応型学習)と言います。

他にも、多くの学習者が学習につまずくポイントをあぶり出し教材修正のきっかけを演出したり、過去の学習者が最も効率的に学習を行いスキルを獲得したルートを検索し、それをコース化したりといった集合知を結集したようなコースや教材の構成は、教材をより活用する上では重要な技術です。

これらは学習履歴データの蓄積やAIテクノロジの活用で実現可能です。このようにあらかじめ決められた方法だけでなく、状況に応じて適切に教材を提示したり、より効率的に学習を進めることのできる仕組みは、これからの受講環境で求められることだと思っています。

 

2、ポータル化
近年はeラーニングは多様化しており、eラーニングに求められる機能は多種多様です。これらのニーズに応じた機能を1つのベンダで全て提供するのは無理な話で、他社の様々なシステムやサービスを使いたいところです。

例えばコロナ禍でよく使われるようになったWeb会議システム、代表的なところで言うとZoomになると思いますが、このZoomをオンラインのライブ授業で活用するのはとても便利です。ただ、eラーニングシステムとZoomとをなんの連携もなしに使うのは運用上とても大変です。誰にどのZoom授業を配信するのか、誰が出席したのかを管理するのは大変です。そこで、Zoomとeラーニングシステムが連携してその辺りの接続や情報連携を自動でやってくれると飛躍的に便利になると思うのです。

このように、他社様のシステムやサービスと連携し、あたかも1つのシステムのように活用できれば、eラーニングの可能性はより広がると考えます。世の中の情勢的にはこのようにシステム間を繋ぐ国際標準規格であるLTI(Learning Tools Interoperability)も登場し、業界情勢的にも相互利用し合う風潮を後押ししています。

このようにKDをポータル化し、KDから様々な学習ツールやサービスが使えれば、学習者の利便性は高まり、履歴も一元管理されて有益だと考えました。

 

3、教材の制作しやすさ・表現力
前回の記事でも書いたように、弊社のコアコンピテンシーの1つは教材制作をユーザサイドで行える環境を提供すると言うことにあります。このUGC=User Generated Contents、ユーザが教材コンテンツを制作するというのは弊社の最初のお仕事であるM-STATION以来、脈々と続く思想です。

近年の一般的なコンテンツでいうと、テレビなどの旧来からのメディアは衰退し、YouTubeやTikTokなどのライトウェイトなコンテンツがメインストリームになりつつあります。これは重厚長大なテレビというメディア、お金と人手をたくさんかけて単数のコンテンツを作ってマス配信する時代から、誰もが気軽にスマホで映像を撮影して配信することで、一つ一つのクオリティはテレビほど高くなくとも多彩な視聴者の嗜好性に合わせた数多くのコンテンツを配信する時代に移行したということです。Bを企業(放送局・出版社)、Cを消費者と捉えると、従来の放送局から消費者に向けて発信するB to Cというモデルから消費者同士で情報のやり取りをするC to Cの重要度も増しています。

eラーニングもこの流れは例外ではないと思うのです。権威のある方や団体が作った教材を使うこともあるでしょうが、組織や個人が求める教材は、その組織や個人にマッチした教材であって、そういう教材は口を開けていても入手できず、結局は自分たちで作るという内製化しかないのです。以前ならハードルが恐ろしく高そうに思える内製化も、YouTubeやTikTokなどのCtoCに適した機材、ノウハウが世の中に溢れており、手軽に内製化を行うことができます。

また、学習する際のデバイスはもはやスマホが主力です。いわゆる「スマホファースト」という状態ですが、スマホに適した教材コンテンツ表現方法や操作感というのがあるように思います。

こういうUGCやスマホファーストの教材コンテンツ表現は今後もこだわり抜きたいポイントです。

 

以上のように3つのコンセプト(インテリジェンス&スマート、ポータル化、UGC&表現力)を設定し、これらを受容するプラットフォームとしてKD7を推し進めたのでした。

そして見出した2つの価値

実際に開発が進みKD7の全容が見えてくると、上記3つのコンセプトとは別の価値も創出していることに気づきました。

1、管理の洗練化・管理の門戸開放
冒頭に示したように、KD7の直接的な開発理由として管理者機能のモダン化がありますが、これは単に見た目をモダンにしたというだけではない価値がありました。グローバルメニュー化することで機能を選びやすくし、画面遷移を抑え、冗長な操作を減らす。選択インターフェイスなどをモダン化して操作性を向上させる。こういうユーザーインターフェイスの積み上げで操作性はずいぶん向上しました。

管理機能の洗練化の一例

例え話になりますが、初めて乗るクルマ、それも最近のハイテクなクルマは初見ではなかなか運転できないですよね。ステアリングやブレーキペダル、アクセルペダルに関しては大抵のクルマで同じですが、エンジンの掛け方、ウィンカー、サイドブレーキ、ギアの操作といったその他の基本的な操作ですらクルマによって異なりますし、自動運転やオーディオ操作に至ってはもう複雑でさっぱりわかりません。そこで初めて運転するクルマに乗るときに各機能の説明や運転のコツのようなものを教えてもらうのですが、これを「コクピットドリル」と言います。

KD7ではユーザーインターフェイスは極力シンプルに、そしてできるだけ一般的なシステムに使われる文法に則った実装を心がけているため、操作は直感的になり、コクピットドリルの所要時間はやや減少したように思います。

これは日々の運用業務を行う方への作業負荷低減というメリットがまず挙げられます。機能が集約され画面遷移やボタン操作が少なくなると、作業はよりスピーディに、心理的・時間的な負荷を下げて行うことができるでしょう。日々の作業の話なので、ちょっとの改善を積み上げると大きな差になって表れます。

そしてもう一つのメリットは初めて操作する方へのコクピットドリルの負荷を減らすことにあります。eラーニングはシステムとコンテンツを用意すればOKというものでもありません。適切な受講者を登録し受講割り当てを行ったり、学習進捗を見て個別にメールを送ったり、学習進捗状況を確認して月次レポートを用意したり、滞留するポイントを見つけて改善したり、新たなコースを追加したり・・・と、まあ実に様々な運用業務が必要です。またeラーニングのメリットの一つは学習履歴を集中的に管理できることですが、1人の管理者が学習履歴を管理するだけでなく、さまざまな方々、例えば上司が部下の履歴を確認したり、部門長が部門全体の学習状況を確認するということもあるでしょう。そのため様々な方々がeラーニングの管理システムを利用する可能性があります。コクピットドリルが少ないと、多くの方に使ってもらいやすくなることでしょう。

 

2、受講と管理の機能の完全分化、個別の専用受講環境の提供の可能性の拡大
KD 7の設計思想として、受講機能と管理機能を完全分離したことが挙げられます。わかりやすいところでいうと、KD6以前は管理者と受講者が同一のログイン画面を利用しており、ログインするアカウントの権限によって機能が切り替わっていたのですが、KD7では管理者と受講者がそれぞれ別のログイン画面が用意されます。これはログイン画面だけの話ではなく、サイトも裏側のシステムも、受講機能と管理機能が完全分離しているのです。

受講機能と管理機能の分離

このことは受講と管理が別機能だというだけではなく、設計思想として任意の受講機能を新設できるように考慮しました。受講機能として新たな受講機能を開発しても、その新たな受講機能のための独自の管理機能を新たに作る必要はなく、KD7の管理機能で基本的な役割を果たすことができます。そのため受講者向けの専用の受講機能が作りやすくなっています。

独自の受講機能開発の柔軟性

これは独自の受講機能や学習アプリケーションを開発しやすくなる土壌となるでしょう。工数がゼロになるというわけにはいきませんが、管理者機能をゼロから作ることを考えると、工数を大幅に削減し、品質も保つことができます。さらに上の図のように、複数の受講の口を用意しても、同じ管理機能で管理できるというのも大きなメリットになることでしょう。

そして、皆様のもとへ・・・

以上のような経緯、アーキテクチャと管理機能のUIの刷新に端を発したKD7ですが、インテリジェンス&スマート、ポータル化、UGC&表現力という概念を強化し、管理の洗練化・管理の門戸開放、個別の受講環境の開発のベースといった価値も見出し、2022年11月30日に無事リリースされました。

既にデモ版のアカウントを配布してお試しいただける準備ができており、希望される方は担当営業までお問い合わせいただくか、ご新規の方はお問い合わせフォームに「KD7デモ環境希望」とコメント書いていただければ対応いたします。どうぞお気軽にお問い合わせください。

リリース時点でのバージョンは7.0ですが、近々機能をさらに拡充させた7.1のリリースも予定されております。既にKD6をお使いのお客様でバージョンアップご希望の方は7.1リリースから対応させていただく予定です。

ぜひこの機会に最新のLMS、KnowledgeDeliver 7をお試しください。

【参考資料】

【プレスリリース】学習管理システム(LMS)『KnowledgeDeliver』が新しく生まれ変わります!
【弊社blog】KnowledgeDeliver7リリース記念、KnowledgeDeliverに至る系譜
【iOS 6 V.S. iOS 7】各種UIパーツの比較画像(ゴリミー)