「まねる」eラーニングの広がり

By | 2018年6月22日

「eラーニング」という言葉で従来からイメージされていたものと、最近現場で動いているものの間に、ギャップが生じているのを感じています。従来の「eラーニング」とは違うものが生まれているのを感じます。その一つが弊社が「eXラーニング」と呼んでいるものです。

以前のblog「オンラインで経験を:eXラーニング (eラーニングの歴史)」の記事で、ここ近年見られるeラーニングの変化についてお話ししました。かいつまんで趣旨をお話しすると、これまでPCで行う知識習得がメインだったeラーニングが、スマホの登場により接遇マナーや業務手順などの経験をも扱うようになってきたというものです。マイクロラーニングの普及もこの傾向を後押ししています。この経験学習を「eXラーニング」(eXperience Learning)と(勝手に)呼称しております。

あのblogの記事から一年余りが経過した今、このeXラーニングへの展開はますます進んでいるように思います。今回はこのeXラーニングを別の観点から考えてみたいと思います。

今回の切り口は「動画」です。

eラーニングのコンテンツがテキストベースから始まりFlashなどによるアニメーションスライドが普及し、その後PowerPoint+講師映像という講義スライド形式が主流を占めた後に、動画そのものに推移してきました。この辺のトレンドは3年前のblog「今のeラーニングのコンテンツの主流は? 動画キテマス。」でも触れてますので、ご興味ある方はそちらをご覧ください。

さて、この動画、実に汎用性があり、つぶしがききます。なにせカメラ回して撮影すればいいだけなので(実際にはそんなに単純な話ではないものの)、まあ手軽に始められます。eラーニングに限らず、エンタメ系も含め、コンテンツの王道、主流に動画はなりつつあります。

スマートフォンの普及は二つの側面でこの傾向を後押ししています。まずは閲覧者側。昔はPCや携帯電話で映像を見るなんて考えられなかったし、テレビや映画館のスクリーン以外のもので映像を、それも、それなりの再生時間の映像を、閲覧するのは考えにくかったものです。それが今やスマホで動画を視聴するのは当たり前、通勤途中にドラマを見ている人もいますし、今や逆にテレビや映画館のスクリーンがスマホに駆逐されるまでになっています。動画コンテンツをスマホで視聴することになんら抵抗がない、むしろそれを好む人が増えてきたことがまず大きいでしょう。

製作者側のハードルもスマホがやすやすと超えてくれました。2000年に登場したシャープの携帯電話J-SH04に搭載された写メール以降、携帯で写真を撮るのが当たり前になり、やがて動画にも広がってきました。街中や観光地などでスマホで写真や動画を撮影するのはごくありふれた風景になりました。ちょっと前だったら動画撮影というと機材の準備も大変だし、撮る方も撮られる方も身構えたものですが、今はごく普通の行動になっています。

以上のように、閲覧者にとっても製作者にとっても動画というのは一般的なメディアになり猛烈に普及しています。この動画を学びにも活用しようというのは当然の流れです。ここ最近の弊社のお客様のコンテンツを見ると、過半数のお客様が動画コンテンツを採用なさっています。

動画を活用したeラーニングというと、講義形式のeラーニングがまず挙げられます。先生の講義をそのまま収録して配信するスタイルは「いつやるか? 今でしょ!」でおなじみの大手予備校さんが採用され学習効果・ビジネスモデル双方で成果が出たのを契機に、塾や予備校で先生が生で講義するスタイルが駆逐され、受講者個別に講義映像で学習するスタイルが破竹の勢いで普及しています。受講者は自分のレベルに合わせた教材を、わかるまで何度も自分のペースに合わせて閲覧できるので、極めて効率的です。

収録も手軽に行えます。ホワイトボードや黒板を背景に、先生が講義を行い、それを教室に設置したカメラで撮影するというものです。技術的に撮影が簡単というだけでなく、先生方もIT化の特殊な作業は必要なく、普段の授業を行なっていただくとそれがコンテンツになるので合理的です。(演出的には、普段の生講義と同じではなく、オンデマンド配信ならではの授業の工夫や技もあると思いますが、原則的には黒板に向かった通常授業のフォーマットです)

このバリエーションとして、特に企業研修で多いのはスタジオ収録するタイプで、PowerPointやKeynoteのスライドを背景に先生をクロマキー合成し、画面の中で先生が説明するというものです。テレビの天気予報で、日本列島を写した天気図に人が写り込んで解説するのと同じです。下にサンプルを載せておきます。

上記はブルーバックで合成した例ですが、実際に大画面のLEDパネルに投影したものを講師が説明する様子をカメラで撮影するだけ、というスタイルも存在します。

社内研修もしくはその元ネタとなる資料の多くは黒板に板書されるものではなく、PowerPointスライドなどの形式で存在しており、こういう資産を利活用する上では有効でしょう。さらに制作者の都合でいうと、この形式は講義のスキルは黒板ほどには求められず、通常のプレゼンテーションの延長線上で行える点でも有利です。講師や教員を専門とする教育のプロではない方でも、さほど違和感なく講義が収録できることでしょう。

ここまでが動画のコンテンツのこれまでの変遷です。動画コンテンツには、教室収録とスタジオ収録の2つがあり、いずれも簡単に制作でき、受講者も普段から親しんでいるメディアだから広がっているという話です。

ただ、これに止まらず、先の広がりが見えてきています。ここからがいわばこのblogの本題にもなるのですが・・・

 

本題に入る前に、従来型の動画コンテンツについて考察してみましょう。

黒板の講義であれスライド合成の説明であれ、この形式では知識を習得することを目的としています。紙教材に書かれていることを、先生が声や指差しでポイントを強調したり順を追って流れを説明することで目や耳に訴えかけ、理解や記憶が深まるでしょう。またテキスト化されていない行間、ポイントやコツのようなものを追加することで、モチベーションの喚起や理解の促進にも繋がることでしょう。

でも、これらの学習活動が動画でしか実現できないものなのか? と言われるとそうでもありません。紙教材を自学自習しても、本を閉じたり居眠りする誘惑を断ち切りモチベーションを高める必要はあるにせよ、近しい学習活動は行えます。例えば紙教材でもこのアプローチに近いものもあり「実況中継」という参考書のシリーズは講義で先生が話している内容をそのまま収録したような紙教材です。実際の授業に出ているのと同じ感覚で自律的に学ぶことができます。

人によって、授業を受けて実際の先生から習いたいという人や紙の教材を読み込んで勉強したい人など、様々な学習スタイルがあります。eラーニングはその一つのスタイルであり、何も全ての学習スタイルをeラーニングに置き換える必要はありません。eラーニングというものはそういうものです。

 

さて、ここからちょっと話題が飛び、大上段からの話になるのですが「学ぶ(まなぶ)」は「真似る(まねる)」と同じ語源「まねぶ」から来ていると言われています。

ここまで説明して来た動画による「学び」は資格取得や受験合格、制度や法令理解に代表される知識習得・論理的思考力の育成など、理念や概念といった形而上学的な学びを扱っています。

一方、冒頭で触れた経験学習=「eXラーニング」は業務に直結した業務フローなどを覚える、実際の活動、フィジカルなもの、いわば形而下学的な学びです。特に企業内研修では形而上学的なものだけでなく、この形而下学的な学びが強く求められる傾向があります。作業手順や接遇マナーなどを覚えるための学びはその会社の事業に直結する重要事項です。人材も多様化しており、例えば店舗では日本人スタッフだけとは限らず、日本語を母国語としない方の採用も進んでいます。特に店舗や現場などの現場で働く方々を対象に考えると、人材不足の折、多様な人材をいかに短期間で立ち上げるか、その品質を一定に維持するかは、以前に増して重要なポイントです。

サンプルのコンテンツ例を下記に掲載しておきます。

解説動画で手順を理解した上で、繰り返し練習して業務を覚え、先輩からのフィードバックやチェックを受ける・・・ この一連の学習活動は「まねる」「まねぶ」「まなぶ」ということを喚起させます。お手本=ベストプラクティスに触れ、近づけるために何度も何度も繰り返しやってみる。自分の動作とお手本との差分を知り、どう埋めればいいかを他者のアドバイスを受けながら修正していき、体に覚え込ませる・・・ おそらく初期の人類の学びはこのような「まねる」にあったのでしょうし、原始的でありながらも今なお学びの根源的なスタイルであり続けます。

この「まねる」学習を行うにはどうすればいいのか・・・ その解決策の一つが動画です。上の例は接遇マナーのコンテンツの一つですが、エレベータでどのように人をエスコートすればいいのか、文章で書いてもなかなか伝わりにくいところを動画で説明されると、すっと理解できます。このように動画の利用で「まねる」素材を伝えやすくなったことに端を発し、VR/MR、マイクロラーニング、電子マニュアルと、「まねる」ことに適した技術・手法が登場しています。

これら「まねる」ことに適した技術の発展に伴い、これまでeラーニングの適用範囲外だった領域が適用可能になり、ひたひたとその価値が利用者にも伝わってくる、そういう兆しを感じます。

事例としても株式会社ドミノ・ピザ ジャパン様や株式会社松屋フーズ様など、eXラーニングの先駆けとなる導入も進んでいますし、店舗教育を中心に今後進むことでしょう。

これが我々が「eXラーニング」と呼んでいるものの背景にあります。今時点ではeラーニングとほぼ同一のもので、利用用途での違いが認められる程度と認識されているかもしれませんが、今後求められる技術やコンテンツ表現はeラーニングとは違った進化・発展をするのではと思っており、eXラーニング領域の技術は弊社で注力している領域の一つです。

 

 

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